
渓流釣り愛好家なら一度は夢見たのではないだろうか、ヤマメやイワナなどで溢れる渓魚の楽園があの川の上流にあるかも知れないと。もしも九州でそんな場所を見つけたら、君は「エノハ谷」や「マダラ谷」なんて名付けるに違いないw
残念ながら今のところ「エノハ谷」という地名の存在を確認できてない、一応「シバゴ」、「マダラ」、「アメノハ」といった方言的な表現にも注意はしているけれども。
ところがである、旧野津原町の小字を確認し旧安心院町の小字調査に入ったときのこと、エノハよりも先にアブラメの名前を冠した地名に出会うことになるとは…。
その上、地図で確認するともしかすると入渓済の谷であり、アブラメが爆釣だったことは語りたくもないようなwww
地名には思っていたよりも直接的な方言語彙が残っていない事は、全国の峠地名を見たときに気づかされたが、小字レベルでは存外に残っているものなのだが…。
今回のアブラメとツガニを冠する地名は、魚名方言(名称として地域語彙とでも呼ぶほうが良いのかも^^)がそのまま記された貴重な事例でもあるため取り上げてみた。
令和8年の渓流解禁前にちょっとしたネタ話となれば幸いに存ずるのであるんである。
阿布良女谷(あぶらめだに) 宇佐市安心院町の地名より
大分県宇佐市安心院町(旧宇佐郡安心院町)の小字をリストアップしていた時に見つけた時に二度見してしまったのが、
・阿布良女谷(あぶらめだに)、大分県宇佐市安心院町山ノ口(やまのくち)
渓流釣り師なら悶絶必死! 避けたくなるような「アブラメ」の名を冠する谷の地名である@@
魚名はタカハヤらしいが、個人的にはアブラッパヤ、アブラメ等の方が通りが良いように思う。
母方の実家でもある久住方面では身を擂り潰して「サツマ」にして食べるが、安心院の方はどうなんだろ? ご存じの方が居れば教えてほしい。
では、大字山ノ口(現宇佐市安心院町山ノ口)を確認してみよう。

参考にした「安心院町誌」には小字図も掲載されているが、阿布良女谷の位置記載がなかったので推定になってしまうのが無念。
南側の大字福貴野・寒水との境界を流れているのが駅館川水系深見川、その北側斜面に幾つかの谷筋は見えるものの水線が記されている谷があやしそうだ。
実際に福貴野の滝に訪れたことがある人なら分かるだろう、県道50号線から滝方面へ向かう道の途中で駐車場の少し手前、雨後などは水量がしっかり過ぎるほどある谷だ。
推定だがこの支流(もしか他の小さな谷かもだがw)が、小字の阿布良女谷ではなかろうかと。
ここがアブラメ谷ならば、アの日アの時に雨中突撃したアブラメ乱舞は夢ではなかったのだ、そう、確かにアブラメの楽園が安心院にあったのだwww
アブラメに食料としての価値があったのか、それとも捕りに行ってもアブラメしかいないという否定的な場所だったのか、聞き込みをしていないので全くの不明ではあるが、「故もなく魚名を地名にはしないだろうな」と考えている。
ちなみに長崎県には、
アブラメ瀬戸 長崎県壱岐市勝本町東触 33.869293,129.682692
という地名も存在した、これはアブラメ(おそらくアイナメ系)違いだが^^
旧安心院町民はカニも好き??
さて、渓流釣り繋がり(むむ?)になるが、旧安心院町ではもう一つ面白い地名を見つけた、ツガニの名を冠したものだ。
エノハの外道として良く釣れるのが前段のアブラメであるが、この「ツガニ」いわゆるモクズガニも時折釣れることがある。
番匠川支流及び宮崎県北川支流の源流域などでミミズを餌にすると良く釣れたものだ、まぁ食べられる大きさを釣ったことはないのでリリースが基本、大分川の河口あたりの流し釣りなんかでも稀に釣れるが持ち帰ったことはないw
「なに? 渓流でカニなんか釣ったことが無い?」
それはね、君が餌を流すのが巧いからだよ…。
という自虐ネタはおくとして、旧安心院町に2箇所あり以下の通り。
津ガニケ谷 つがにがたに 大分県宇佐市安心院町房ケ畑
ツカニケ台 つがにがだい 大分県宇佐市安心院町熊
どちらの大字も旧宇佐市域との境界付近に位置しており、駅館川水系佐田川の支流にあたる。
ただ、ツカニケ台の位置は安心院町誌の小字図では確認できなかった、あの佐田京石の付近ではあろうが、無念。
というわけで、安心院町誌から小字図をお借りした、佐田地区の小字図を拡大したのが以下の画像。

津ガニヶ谷だけでなく、味ソ桶、ナノミなども気になるが割愛。
んで、現在の国土地理院地図からの推定箇所が以下。

大分県宇佐市安心院町房ケ畑字津ガニケ谷の大凡の位置。
九州だけでなく西日本を中心に昔から身近なカニと言えばワタリガニとモクズガニであり、食用としても人気があるのはご存じの通り。
安心院に残された小字からは、単にツガニ(モクズガニ)が多く猟場であったのか、それとも地形的な由来なのか等々、命名の理由は不明だが人々の間に名付けに相応な理由があったのだろうと思う。
猿蟹合戦でも知られるように昔話や伝説にもカニは意外と登場する、大分県だと有名なのが長湯温泉のガニ湯の話。
若い女性に懸想した大蟹とそれに横恋慕したエロ坊主に罰が当たる(実はカニは只の被害者でないか?ともw)という開湯伝説が残される。
このガニ湯は、入浴しながら渓流釣りが楽しめるという渓流釣り師が憧れの温泉であるw
そんな長湯周辺の目立たない場所を散策していると、川沿いなどでガニ湯の原型と思われるような穴ぼこの水からの泡(あぶく)がポコポコと湧いてる箇所を見つけることがある、実はガニ湯名の由来は是かと思わされる。
安心院だと温泉系由来の線は薄くなるが、参考として記しておこうか^^
アブラメとツガニの名を冠する地名から見えるもの
現状の関心事の一つは、その地名もしくは魚名がどれくらい時間を遡るのだろうか? という点。
分かりやすいのはアブラメで、これはアブラ+メだろう。
「アブラ」の初出はおそらく、「次国稚如浮脂而 久羅下那州多陀用弊流之時」とある古事記の初めの文だろう、日本書紀にも類似の文がある。
これを読み下すと、「次に国稚(わか)く、浮きし脂(あぶら)の如くして、 くらげ(海月)なすただ(漂)へるの時」となる。
意味は現在の油や脂に近いことは窺えるかと。
アブラメの魚体を考えると粘液という意味が近いだろうが、アブラという語句自体の時間軸は確実にここまで下がるのが理解できる。
「メ」はヤマメやアイナメなど、魚名のみで考えるとメ≒女の類例かと思うが、メには「女」以外にも「奴」、「目」、「芽」等々色んな意味や別例(ワカメ・アカメ)があるため注意はしておくべきだろう。
現時点で初出は判然としないが、ほぼアブラと同時代の記紀成立頃ではあるだろうと。
これらから魚名としてアブラメを考えると、古そうではあるが…。
申し訳ないのだがアブラメという魚及び魚名自体を調べていないことに、「今」気が付いたwwwwww
もちろんのことツガニもである、いや私らしくて草も生えない。
一方で地形としては、所謂「谷」の地形と「台」の地形を指している。
全国的な地形名称の内、谷の表現には「沢」や「浴(えき)」に「入」なども用いられているが、安心院では谷のみであった。
台は山口県の「秋吉台」を筆頭に大分市の「雄城台」など実例は多数あげれるのだが、現状よく理解ができていない(地理用語で使われる台地とは等しく無さげ)ので、これも今後に任せるしかない><
そういうわけで、今回のアブラメとツガニだけでなく、語彙と地形を含めて考察範囲はかなり広い>< ため、地名と並行して順次調査し機会があれば報告したいなと♪
今後の小字調査にて、魚地名の類例が増えることを期待している。

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