アイナメの方言名は、アブラメとシジュウが二大勢力だった

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アイナメの方言名

アイナメは古くから美味の魚として知られ、白身の高級魚のひとつ。身はしっかりとした歯ごたえと弾力があり、全長は30~40cmほどだが、60cmを超える個体もあるという。

地元九州にアイナメ狙いの釣り船があるのかは知らないが、知り合いの船で出た国東半島の沖釣りでは40cm前後までの型が揃うため刺身が楽しみの一つだった。ただし大分での根魚狙いの岸釣りでは、クロソイ以上に出会うことは少なく、サイズも小さいものだけだった。

釣り対象魚としての人気は東日本の方が高いように思う。

アイナメ方言名の地域別分類

大きく太平洋岸のアブラ系と日本海側のシジュウ系にアイナメの方言名が分かれていることは下記から見えてくる。これは、カサゴでも見えた点だが、地図化していくともっとわかりやすいように考えている。

瀬戸内海として地域を見た時に名称はカオス状態となるのもカサゴと同様。研究・調査するには太平洋岸側と瀬戸内海とを分けておく方が良いとは思うが、地理的にではなく文化的に線を引けるほどの知見は無いので自身の研究の進展を待ちたい。

当然だが地元の呼び名であるオツムギの範囲がはっきりしないのは残念で周囲から取り残されており、ツムギ系は徳島、兵庫、和歌山、大分の一部に残って居るところをどう考察するのかが面白い点。周防から伊予方面の瀬戸内海西部に残されているモミダネウシナイ(籾種失)の方が勢いがあったようだ。

※方言の分類においては北から4つ地域に分けているため、それぞれの境界に当たる青森県、鹿児島県、山口県下関などで一部境界地域を、各地域に分類していきますので、県別方言になってない点にはご注意ください。

※同サイトでは、この港では「〇〇」と呼ばれていることを探しており、筆者の調べに不正確な点や誤謬があっても話者(情報提供者)の間違いなどを追及するものではありません。

北海道、津軽海峡及び陸奥湾での方言名

アブラコ 北海道静内、南部、東南部、函館
アブラコ、アブラッコ 北海道
シジョウ 北海道函館
シジュウ(シジユウ、シヂユウ) 北海道函館

ロブクホッケ 南樺太

アブラメ 青森県青森市
ワタリアブラメ 青森県龍飛
※産卵期のものか?
アブラコ、アブラッコ 青森県下北
アブラメ 青森県むつ市大畑
アブラコ 青森県大間、鮫、浅虫

太平洋側及び伊豆・小笠原諸島から瀬戸内海の方言名

アブラメ、ネウ 東北
ホッケ、ホツケ 東北

アブラメ、アブラコ、キロ(小)、キロキロ(小)、シジュ 青森県
キロキロ 青森県八戸
アブラメ、アブラッコ、キロキロ(小型)、キロッコ(小型)、アギオッコ〔小型)、ホシナコロシ(小型) 青森県八戸

ネウ 岩手県一関市

スイ 宮城県松島
ネウオ、ネウヲ、ネウ、ネエウオ、ネエオ 陸前地方、宮城県仙台市、石巻市
ホッケ、ホツケ 陸前地方

アイナメ 福島県小名浜
エナイ 福島県
アイナメ、アイナ 福島県
ネウ 福島県相馬

アイナメ 関東周辺
ビール瓶⇒一升瓶(成長魚) 関東、東北の釣り師

エナイ 茨城県常磐
アイナ 茨城県常磐地方、水戸
エイナ 茨城県水戸
アアナ、エイナ 茨城県大洗、那珂湊

ダボ 千葉県木更津、上総
エエナア 千葉県銚子

ホッケ、ホツケ 東京
クジメ 東京付近、武州子安
アイナメ、クジメ(幼) 東京

クジメ 神奈川県子安
アイナメ 神奈川県、三崎、江ノ島
モロコシ、アイメ 神奈川県横浜

アエーナメ 静岡県賀茂郡白浜村
ウミクジラ 静岡県浜名郡舞阪町
ベロ 駿河、静岡県静浦
ホッケ、ホツケ 駿河
※アイナメはノミノクチ 静岡県伊東市富戸

ワガ 愛知県知多
ノソ 愛知県佐久島
グジメ 尾州
グシメ 尾州常滑

アブラウオ 三重県西部
コモズミ、ナメイオ 勢州

アブラウオ(アブラウヲ) 和歌山県、紀州、熊野浦
アブラメ、トッパ、ツムギ、ハタ 紀州
ツムギ 紀州海士郡磯脇

アブラメ 関西

コツクリ、メントリ 大阪府、摂津
アブラメ 大阪市
アブラメ 大阪府

カクゾウ 兵庫県淡路
スボコ 兵庫県淡路島
アブラメ、アブラ 兵庫県淡路
トトロ、トロロ 兵庫県高砂市
アブラメ 兵庫県明石、高砂、淡路、家島、岩屋、福良
ツムギ 兵庫県明石市
※若魚
アブラジャコ⇒コゼッポ⇒アブラメ⇒ボン(成長魚) 兵庫県明石市

アブラメ 岡山県日生、牛窓、胸上、下津井、寄島、白石島
※日生、胸上ではクジメも同名称
スクモ 岡山県白石島
スゲ 岡山県胸上
※牛窓ではクジメの事

モミダネウシナイ 広島県
アブラメ 広島県

モミダネウシナイ 周防一帯、徳山、玖珂郡鳴門村大畠
アブラメ 山口県小野田、柳井、室津
※ササノハベラも同様に呼ぶ。
アブ 山口県柳井、平生

アブラメ 四国

アブラメ 徳島県徳島市
ツムギ 徳島県阿南市
アブラメ 徳島
ツムギ 徳島県阿南市
※若魚

アブラメ 愛媛県松山市
モアブラメ、アブラメ 愛媛県三津
モミダネウシナイ 伊予西条

オツムギ 大分県国東市田深

日本海側から対馬海峡及び東シナ海方面

アブラメ、アブラコ、キロ(小)、キロキロ(小)、シジュ 青森県
シンジュ 青森県深浦、鰺ヶ沢
アブラメ、アブレヌ 津軽地方
アグトク(小) 青森県西海岸

シンジョ 秋田県秋田市周辺
シンジョ(シンジヨ) 秋田県男鹿
シジョウ 秋田県
シジュウ 秋田県
シンジョウ 秋田県象潟

シンジョ 山形県鶴岡市由良漁港、遊佐
シジョウ 山形県
アブラコ 山形県庄内
シジュウ(シジユウ、シヂユウ) 山形県
シンジョ、シンジョベラ(小) 山形県温海
シンジョ、シンジョベゴ(小) 山形県鶴岡、飛鳥
シンジョ、アイナメ 山形県酒田

シジョウ 新潟県上越市
シジュウ、アブラメ 新潟県
シジュウ(シジユウ、シヂユウ) 新潟県各地、佐渡ヶ島

シジュウ(シジユウ、シヂユウ) 石川県七尾、羽咋
アブラメ、シジュウ 石川県金沢市
シジュウ 石川県珠洲、石崎
シッジウ 石川県宇出津
アブラメ 石川県輪島

ホッケ、ホツケ 越中、富山県氷見、魚津
モイオ(モイヲ) 富山県 
ホツケシジュウ 富山県新湊・旧四方町
ホッケ 富山県氷見、魚津
マンサ 富山県生地
イジュウハチメ 富山県高岡
シジユウハチメ 富山県高岡
オキシンジョウ 富山県氷見市藪田浦
シンジョウ 富山県氷見市藪田浦

シンジョ(シンジヨ) 福井県鷹巣
シンゾウ 福井県鷲巣
シンジョウ 福井県三国

シジュウ 京都府京丹後市久美浜町
シジョウ 京都府
シジュウ 京都府
シジュウ(シジユウ、シヂユウ) 京都府宮津、丹後地方
モマ 京都府丹後町間人

シジウ 但馬地方一帯(兵庫県北部)
クロアイ、クロテン 兵庫県美方郡新温泉町
シジュウ 兵庫県津井山地区、竹野地区、香住地区
シジュウ、ムツゴ 兵庫県相谷、柴山地区
シジュウ、アブラメ 兵庫県三尾地区
モヨ 兵庫県浜坂地区
モヨ、モツゴ、シジュウ 兵庫県釜屋、諸寄地区、居組地区

モヨ 鳥取県岩美町浦富
モズ、モヅ 鳥取県米子
シジュウモズ、シジユウモズ 鳥取県赤崎
アブラメ 鳥取県

モツ 島根県松江、大社
モズ、モヅ 島根県出雲市今市
アブラメ 島根県隠岐
モズ、モツ、モジ、アブラメ、モチ、モバ 島根県東部
アブラメ、モツ 島根県西部
モツ 島根県隠岐

モウオ、アブラメ 山口県下関 
モツ 山口県萩
モミダネウシナイ 長門地方

アブラメ 志賀島

アブラメ 佐賀県玄海
ヤスリ 佐賀県

ヤスリ 長崎県
アブラメ 長崎県壱岐
モチノイオ 長崎県有明海

アイナメ 有明海

モチウオ 熊本県八代
アブラメ 熊本県八代

種子島及び屋久島以南の方言名

シュク、シユク 沖縄県

標準和名アイナメ その由来や雑学

アイナメ(鮎魚女、鮎並、愛魚女、阿比奈女などと記される)は、カサゴ目アイナメ科に分類される魚類の一種。

比較的塩分濃度の低い浅い岩礁域を好み、日本沿岸に広く生息する底生魚。

北海道全沿岸、青森県〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、青森県〜九州南岸の大平洋沿岸、瀬戸内海。
ただし、四国南部(高知県を中心にして)など比較的暖流の影響を受ける地域には生息していないという。高知、宮崎、鹿児島あたりで方言名が見られていないのもその証左であろうか。

刺身、煮付け、唐揚げ、潮汁、焼き物、味噌汁、干物、みりん漬け、粕漬けなどさまざまな食し方がある。全日本白身魚党党首としては刺身を勧めておきたい。

アユナミかアユナメかに分かれるアイナメの由来

語源関連の辞典類で見ると、アイナメの由来は大きく二説に分かれる。

1、鮎に似ていることから、鮎並の転か。⇒アユナミ派
 甲 鮎のように縄張りをもつから
 乙 形が鮎に似ているから
2、鮎のように滑らかであるから。⇒アユナメ派

これ以外にも、アユがアイヌ語の「アイ=矢」であるとすれば、「アユナミに矢のように速く泳ぐ魚」というのもある。

さて、「アイナメの姿形って鮎に似てない」と思う方も居るかもしれませんが、その考え方は間違いです。分かりやすい例をあげれば、「美人の基準は今と昔では違う」などと言われるのを思い浮かべるのが良いでしょう。色の名前なども良い例かも知れません。

歴史研究などで時間軸を遡って考える時に、その当時の人々と感覚が違うことを忘れてはいけないと考えています。まぁどうしても現代からの視点というのは排除し難いものですが。

各方言名の由来譚

瀬戸内海西部(周防、伊予、安芸)に見られるモミダネウシナイ(籾種失)という方言名が目を惹く。これは、『旨すぎて来年の田植え用の種まで食べてしまう』という事からくるとされる。近い例として、サッパの事を瀬戸内海沿岸(特に岡山県)ではママカリと呼ぶが、これは「飯借り」と書き、『飯が進み過ぎて、家で炊いた分だけでは足らず、隣の家から飯を借りてこなければならないほど旨い』に由来する呼称がある。

瀬戸内民の食い意地の張り様が分かる気がする。

この他では、「アブラコ」は油子とも記し白身魚としては脂質に富むため、「シジュウ」は何時(始終)でもいるから、「ネウ」は根魚を云うなどとの由来がある。

注意事項や語彙募集その他

※渋沢敬三が指摘する通りアブラの名を持つ魚種であり、地方での命名について考察が必要であろう。

※外観的にもホッケ、クジメとの混称が見られる点には注意が必要と考える。ただ、混称という表現は間違えて呼んでいたとは考えておらず、生活の中でその分類をする必要が無かったものであると考えるのが正しいように思う。方言名では生物学的分類とは主旨が違うと考えている。

※類似するクジメとの簡単な見分け方は尾鰭を見ること。クジメは団扇のように丸みのある尾びれだが、アイナメは丸みが無く直線的。
またクジメは全体的に小さく、アイナメほど大きくは成長しない。

アイナメの方言名・由来譚を随時募集しております。

貴兄のお住まいの地域でのアイナメの方言名・地方名とその由来譚及び現在の呼び名を随時募集しております。情報が入り次第追記してまいります。

港周りでの古老や漁協さんが呼んでいた古称から、若い人は今何と呼んでいるのか、それはどの範囲に広がっているのか、そしてできれば由来にかかる方言や伝承があるのか等々が筆者の知りたいことです。

FB、twitter、コメント、メール等で谷澤憧渓までお知らせくださると助かります。

地図化を考えておりますので、お知らせの際には〇〇県〇〇市に続き、町名・字名・港名などがあると物凄く喜びます♪

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