「物類称呼」にて江戸期の魚名及びその方言を確認する

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物類称呼(越谷吾山著)にみる魚名一覧

この「物類称呼」とは、安永4(1775)年に江戸で刊行された諸国方言の類集で俳諧師の越谷吾山の編によるもの。

魚名及びその方言を調べていると何度となく引用元とされていたので「確認せねば!」と思っていたところ、ちょうど人間文化研究機構国立国語研究所所蔵のものがpdf版として公開されていたので、それを底本として江戸期の魚名を確認してみることに♪

もうね、吾山さんあんたはすごひ! 
ただねぇ、もうちょっと書体統一してくれると嬉しかったり楽だったりしたんだけれどもw

諸国方言 物類称呼 にみる魚名一覧

作業としては、越谷吾山著の「物類称呼巻二」の原文(下写真参考)を読み、テキスト版と確認しつつ各魚名と地域呼称を今後の調査研究の為に抜き出してみた。

物類称呼巻二 タナゴやナヨシについての記述
物類称呼 「人間文化研究機構国立国語研究所」所蔵より

また民俗他当時の江戸の生活などが見られる部分も参考とするべく抽出しておいた。

興味深い記述が多いのだが、ここでは各魚種の考察及び現代標準和名との比較などは行っていない。
また、現時点では不明な魚名もあるので産物帳他江戸期の資料類を今後見ていく上で分かってくることも多いと考えている。

なお、以下では江戸期の魚名表現と仮にしている。
これは使用されている漢字とその訓じ方、また発音の問題と魚種確定の難しさがあり、現代との齟齬を埋める良い手立てを見つけていない私の実力不足に起因している。

== 江戸期魚名表現の凡例 ==
1 原文に送り仮名や返り点等は付さない。
2 【】内は本文にある魚の特徴など、原文のまま。
3 []内は注記等、原文のまま。
4 {○○}は原文記載の送り仮名。
5 複数文字の繰り返し 〔例〕いよ〳〵、ぢう〴〵。
6 (▼)は解説・解読や意味など、調査・研究用に付したもの。
7 =は同様の大きさの物や価値の物を示す。
8 例 魚+豕は魚偏に豕の意 表示漢字が無い場合や使用サーバーの都合によるもの。
9 〽は庵点(いおりてん)。和歌などのはじめを示す。
================

誤読・誤記等があればご連絡いただけると幸いです♪

江戸期の魚名表現

鯉 こい
・【鯉魚の小なるを】
 =ぶんしろ 武蔵國

䲙 たなご
・たなご 関西
・にがぶな 関東
・しぶな つくし(▼現筑紫か)
 [たなごは鮒の類也又海に鱮魚{たなご}有同名異物なり]

鯔 なよし[此魚の惣名也世にぼらと云日本紀に云口女{くちめ}これなり]
・【極小なる物】
 =をぼこ 江都(▼下注記より、近江・京都の事でなく江戸の雅称)
  [東国に小児をおぼこと云故に此魚の小なる物を云]
 =ちよぼ 加賀
 =いきなご 土佐
  [土州にてはいきなごを塩辛とす銀びしことよぶ]
・【小なるもの】
 =いな 関東・関西
  [いなは稲の茎くされて魚と成といへり然る時はいなとは稲魚{いな}なるへしいにしへは魚を魚{な}と称せしなり]
 =洲走{すばしり} 
 =はしり 遠州
  【漁人簀{す}の四方に網{あみ}を張て是をとるを簀引{すびき}と云因{よつ}て簀走{すばしり}の名有一説に此魚河と海との潮境{うしほざかい}を往来する頃{ころ}を賞{しやう}して洲走の名有とぞ江戸にては六月十五日より洲走{すばしり}と呼十四日迄をいなと云也】
 =ござらし江鮒 畿内、泉州堺の名産
  【九月にいたり泥味{でいみ}なく脂{あぶら}多くしていよ〳〵味ひ美也色又さらし洗ふたるが如し】
・なよし、ぼら(▼ぼらサイズの江戸通称か)
 =伊勢ごい 勢州鳥羽
  【鯉に類するをもつていせ鯉と云関西の称なり東国にはぼらとのみ呼也】
 =まくち 長崎
  【上古くちめといひし詞の遺{のこ}りたる也】
 =めうぎち 勢州、尾張
  【名吉{なよし}の音{をん}義を用たる也】

棘鬛魚 たひ
・へいけ 豊前
  【蟠竜子ノ曰鯛をへいけと云は平魚{へいぎよ}なるべし『延喜式』に平魚】
  (▼蟠竜子とは江戸時代前期から中期の神道家、肥後熊本藩士井沢蟠竜のことか)
・弁慶鯛 東武
  (▼東武とは武蔵国、もしくはその東部。あるいは江戸の事、ここでは江戸(及びその周辺域)と思われる)
 =へいけ 肥前唐津
 =へうだひ、へうご(▼へうだひの子) 土佐の海
  (▼これらも平魚の転訛だろうと記す)
・桜鯛 泉州堺、東武
・麦藁{むきわら}鯛 中国、四国
 [中国四国ともに四月出る鯛を云]
・前{まへ}の魚 津の国(▼摂津国)
 [摂州西ノ宮社前の海上にとる物を前の魚と呼東武にて江戸前うなぎと云が如し]
・甘{あま}鯛
 =あまだひ 畿内、西国、東武
 =こびる 出雲
 =奥津{をきつ}鯛 関東
  [駿州奥津にて多く是をとる鱗に富士のかたち有と云つたふ]

鳥頬魚 くろだひ
・くろだひ 東武
・ちぬ 畿内、中国、九州、四国
  【但しちぬと尨魚{くろだい}と大に同して小く別也然とも今混{こん}して名を呼】
・【小成物】
 かいず
  【泉州貝津辺にて是をとる因て名とす江戸にては芝浦に多くあり】

比目魚 かれい、ひらめ
・かれい 畿内・西国
 =ひらめ(▼大型)、かれい(▼小型) 江戸
 [然とも類同くして種{しゆ}異也]
 =鰈{かれい}(▼大型)、平目{ひらめ}(▼小型) 常陸上総下総の浦々
・【貝原翁(▼貝原益軒か)はかれいといふはかたわれ魚の略なりといえり】
・こつぺら 越後、小なる物
 [こびらめと云の誤にや]
・さかむかひ{イ} 佐渡、大イなる物
・霜月びらめ 江戸
 =あさば 越後糸魚川
・ほしびらめ 江戸
 =まつかはびらめ 駿河
・このはがれい[至て小なるものなり]
 =岡田がれい 泉州

鞋底魚 うしのした[一名くつぞこ]
・うしのした 関西及東国の海辺
 =舌{した}びらめ 江戸
 =くちげ 備前
 =ばばがれい 越前

幾須古 きすご
・きすご 関西
 =きす 江戸
 =あめの魚 伊勢ノ白子
  [雨ふる日多くとる魚也故に名とす然とも別也]
 =だうほう 紀州

阿古 あこ
・はちめ 加賀国
・あこ 播摩摂津国
【冬月藻魚の大なる物をあこと呼て賞翫す『和漢三才図会』ニ見えたり又あこは赤魚{あこを}也と云】

藻魚 もうを
・いそめばる 西国

目張 めばる
・そい、すい 陸奥仙台
 =めばるの児{こ}を呼 芸州
・沖めばる
 【其色黒味ひ厚し病人食ふことなかれとなり】
(▼本文再確認の事)

笠子魚 かさご
・こがら
 [かさご藻うをのたぐひなり]

伊佐木 いさき
・奥鮬{おくせいご} 奥州

鮎魚女 あいなめ
・ねうを、しんじよ 奥州
 【あいなめといふを愛す女と云意にて寝{ね}うをといひ又寝所{しんじよ}と云なるべし】
 =あぶらめ 奥州南部
 =しゞう 佐渡
 =べろ 駿州
  【べろといえるは東国片鄙{へんひ}の小児舌{した}のことをいふ也四国にても舌をべろと呼もの稀に有也】

 ※参考
 【『本朝食鑑』に形チ粗{ほゞ}鮎{あゆ}に似たり故に名づくめと称してもあゆの雌{め}にはあらず又『日本紀』『万葉』等に魚を、なと訓ず今按に尾張国又遠州辺の所在にて川魚を水魚{な}と云又江戸に云納屋{なや}も魚屋{なや}也肴{さかな}と云も酒魚{さかな}なりまた薩摩国にては魚肆{きよし}をなや町と云も是なり】
 (▼魚肆とは、うおを売る店。さかなや)
 【さればあいなめと云をなめるといえるこゝろにて駿州にはべろと名つくる歟なめるとは関東にて云畿内にてねぶると云におなじ】
 (▼歟は、推測のか)

保宇保宇 ほう〴〵
・きみうを 佐渡
 =ぼこの魚 薩摩

方頭魚 かながしら
 [其かしら角ありてかたし故にかなかしらといふ]
・かなご 参河(▼三河)
 =いぢみ 越後糸魚川
 =ぎす 常陸下総

石鮅魚 おいかは
・をいかは 京都
 【京師の俗大堰川{おほゐがは}を略しておゐかはと云】
 =あさぢ、あかばゑ、山ぶちばゑ 筑紫
 =あかもと 摂津
 【赤もとゝ云は赤斑{あかまだら}の略{りやく}なり】
【又北国にておいかはと呼魚有同名異物{いぶつ}也】

鱊 いさゞ
・かねたゝき 北国
=だんぎばう 京師
 【京にて目高いさゞ共にだんぎ坊と云】
【又俗にちりめんざこといふは此魚の乾{ほし}たる物也又駿河にてかねたゝきと云は別物也】

麪条魚 どろめ
・どろめ 大坂
=しろうを 筑紫
=どろめざこ 土佐国
【此魚三月海より川水に上るを簗{やな}にて是を捕{とる}長三寸江戸に云白魚より小也其潔白{けつはく}なる白魚に相同し氷魚{ひを}と呼も又是に似たり近江の湖水{こすい}宇治の田上{たなかみ}などに産する物也】

丁斑魚 めだか
・めだか 東武
=めゝざこ、うきんじよ、だんぎばう 京
 【按るに京都にて目高の異名をだんぎ坊とよぶは凡僧{ぼんそう}の経論{きやうろん}も見ずに咄すを水に放すと云(▼以下略)】
=こめんじや 大和
=めたゝき 南都(▼奈良の別称)
=うきた 大坂東南
=こまいじやこ 大坂西北
=めたばり 和泉
=めゝじやこ 和泉国堺、近江、因幡、越前
=めばや、ねばい 伊勢国
=こばい 伊勢国白子、美濃
=うきす 尾張
=ねんはち、めんぱい 遠江
=びつ 相模三浦辺
=めんぱち 出雲
=うるめ 出雲、越後
=うきいを 伊予
=あぶらこ 土佐
=たうを 肥前
=かねさ、こめざこ 越中
=はりみず 陸奥
=めざこ又めぬけ 陸奥国南部
=じよんばらこ 出羽最上

鮫魚 さめ
・のそ 播州
 =つの字 越前
 【その故は此魚捕{とらへ}て磯{いそ}へ上れば仮名{かな}のつの字の形に似たりとて越前の方言につの字となづくと也】
 =ふか 大和
 【さめと鱣魚{ふか}とは大イに同しくしてすこしく異{こと}也ふかの類多し】
【さめの類】
・白ぶか
・うばぶか
・かせぶか
・鰐{わに}ぶか
・もだま
・さゞいわり
【四国及九州にさめの称なしすべてふかと呼】
・ぼうざめ 江戸
 =さがぼう 下野国宇都宮{うつのみや}辺
・ほしざめ 江戸
 =のうそう 西海
・しゆもくざめ
 =念仏坊 西国
 =かせぶか 土佐
・なでぶか 土州
 【船端{ふなばた}に人立時は必尾をもてなて落すと也】

王鮪 しび
・はつ 畿内
 =まぐろ 江戸
 【江戸にてまぐろのすきみといふものを畿内にてはつのみと云】
・しび、まぐろ、びんなが 江都の魚店
 =まぐろ 東国の俗
  【大イなるなし】
  【びんながといへる物はあぶらを去て肉糕{かまぼこ}となすもの也】
・めじか 江戸
 【二尺以下の小なるを】
 =そうだ
  =ひらそうだ、丸そうだ【二種有】
 =目ぐろ 京都難波の俗
 =よかご 相模
・めだいしび 相模
 【一尺余リなる】
【一説に目ぢかとは其眼の近きなりまぐろと云ものゝ小{すこ}しきなるをいふまぐろとはその眼の黒き也】

鰤 ぶり
【この魚の小なる物】
・わかなご 江戸
 =わかな 五畿内及西国四国
【一尺程なるを】
・つばす
 =目白 西国
【一尺余リ二尺にも至るを】
・いなだ 江戸
 =ふくらぎ 北陸道及奥州
 =はまち 関西
【漸{やゝ}大イになりたるを】
・わらさ 江戸
 =らぎ 北陸道
【霜月の頃三四尺五六尺となる】
・ふり
 =そうじ 薩摩
 =大うを 筑前、上総

松魚 かつを
・すぢがつを
 【皮{かわ}の上に縦{たて}に白き縷{いとすぢ}三四条{すし}有】
 =たてまんたら 加賀
・うづわ【小なる物】 関西
・よこわ 関西
 ≠小がつを 江戸
 =うづわ(茶袋)、しぶわ
 【今按に・うづわ一名茶袋又しぶわといふもの有是等を江戸にて小がつをと呼て売也然共別類也よこわと云はめじかと云魚の子也】

河 魚+豕 ふぐ
・ふぐ 京、江戸
 =ふくとう 西国、四国
 =てつほう 江戸にて異名
  【其故はあたると急{たちまち}死すと云意也】
・しほ{ヲ}さい
 【小{すこ}しきなる物なり】
 =ちんぶくとう 肥前唐津
・まふぐ、とらふぐ (▼江戸かと思う)
【まふぐといふ魚は冬の内賞翫{しやうくわん}す・とらふぐと云は春夏ともに喰ふ也】
 (▼賞翫。近世まではしょうかんと訓む。味のよさを楽しむ、賞味すること。またそのもののよさを楽しみ珍重すること)

鰯 いは{ワ}し
・をむら[女詞也]
・をほそ[女詞也]
・あかいわし【塩につけたるを云】
 =からがき 肥前長崎
 =やすら 中国

鯷 ひしこ[いはしの属也]
・かたくちいわし=片口 相模、西国
 =くだいわし 駿河
 =小いわし 上総
 =せぐろ 下総、常陸
【今按に上総の国にて小いはしと称すといへども子の字の義にはあらず又鰯{いわし}の小きをも小いはしといふ秋をもて気とす是にまがふなりひしこを云は小きいはしの如しと云意なるべし】
 (▼秋をもて気とす⇒意味が不明だが、今で云う「秋が旬」くらいの意だろうか)
 (▼まがふ⇒まちがえる、思いちがえるの意)

・(▼ひしこの類例・参考)
=銀びしこ 西国の産物
 【こゝに云鯷{ひしこ}にはあらず鱪{しいら}といへる魚の子を塩漬{づけ}になしたる物也又鯔{ぼら}の小しき物を製したるをもいふ也】
=ごまめ
 【是はいはしにてはなしひしこの干{ほし}たる物也】
 =干鰯 相模、越後、奥の津軽
 =ひいご 仙台
 =かいぶし 加賀
 =すぼし、片口 九州
 =田つくり 伊賀、伊勢、出雲、奥州の内
 【按にごまめとは常の称号也春の始に小殿原又田作リなと唱{とな}へて祝し侍る是稲{いね}梁{をゝあは}を植る物干鰯{いはし}干鯷{ひしこ}をもつてす、故に田つくりの名有又すぼしと云るは簀{す}の上に干を云也】
 (▼小殿原又田作リな⇒何らかの耕作儀礼であると考えられるが詳細は不明)
 (▼梁⇒大粟、梁。おほあは)

青魚 かど、にしん
・高麗{かうらい}いわし、せがい 筑紫
【腹に子有て満{みて}り干て数の子と云和俗鰊{かど}の字を用ユ】

・(▼かど、にしんの類例・参考)
=なまにし 津軽
 【干たる魚をにしんといへば生{なま}のにしんと云意{こゝろ}なるべし】
=かどいわし 江戸
 【鰯の中に交りてあるもの也、松前の旅客に問ひ侍しに少しかはる様におぼへぬると答侍りし】

鱅魚 このしろ
【此魚の小なる物】
・まふかり 京都
 =つなし 中国、九州
 =ながさき 薩摩
  【此魚長崎に多し故になづく】
 =はだらご 筑前
・はらかた 土佐の海
 【是はすぢごのしろといふもの也】
・鯯童{こはだ} 江戸芝浦品川沖、上総、下総
 【と云魚は江戸芝浦品川沖上総下総の浦々より是を出す西海にはこれなし鰶{このしろ}の子にあらず別種也】
 =つなし 駿河 
  =小鰭{はだ} 江戸
・こはだ 駿河
 =さっぱ 江戸
【このしろこはださつはは是皆種類也】
 (▼江戸で云うこのしろ、こはだ、さっぱは別の種類と)
・(▼このしろの参考)
【或人の云世間に子生れて死し又生れては死す事有其家にては子生るゝ時胞衣{ゑな}と鰶{このしろ}とを一所に地中に蔵{をさむ}れば其子成長す尤其子一生このしろを食せざらしむこのしろは子の代{しろ}なりといひつたへたり古哥に
〽東路のむろの八嶋にたつ煙誰かこのしろにつなしやくらん
此哥につきては古き物かたり有普{あまね}く人の知れる事なれは爰に贅{せい}せず】
(▼胞衣{ゑな}とは胎児を包んでいた膜や胎盤などで、後産 (あとざん) として体外に排出される。子どもの成長にとエナは切り離せない物と考えられていたようで、出産後の儀礼などで使われる例は全国に見られる)

鰻鱺 うなぎ
・うぢまろ 山城国宇治
・【此魚の小なる物】
 =めゝぞうなぎ 京 【是はみゝずうなぎの誤也】
 =めそ 江戸
 =かよう、くわんよツこ 上総
 =がよこ 常陸
 =すべら 信濃
 =はりうなぎ 土佐
・(▼うなぎの参考)
【今按に京都にてうなぎを鮓{すし}となすは宇治川のうなぎをすぐれたりとす、よつて宇治麻呂と人の名を以てす江戸にては浅草川深川辺の産{さん}を江戸前とよびて賞す、他所より出すを旅うなぎと云又世俗に丑寅の年の生れの人は一代の守本尊虚空蔵菩薩にて生涯{がい}うなぎを食ふ事を禁ずと云リ】
 (▼荻生徂徠の『南留別志(なるべし)』を参考に「丑寅の年(守護が空蔵菩薩)の人うなぎくふ事をいむはいにしへうなぎをはむなぎといひし也虚空蔵の虚の字むなしと訓{くん}ずればむなぎをいみしなるべし」と越谷吾山は推測している)

海鰻 うみうなぎ
・海うなぎ 畿内
・うみぐちなは 西国、伊豆ノ熱海
・へんび 摂州西宮海辺
【此魚海辺の穴の中にあり、(中略)毒ありと云伝て浜に捨ツ蛇に似て黄色に黒キ文有】

黄顙魚 ぎゞ
・ぎゞ 備前
・ぎゞう 東国
・あいかけ 北国
・ざす 加賀
・はちうを 奥州、越後
・あかにこ 越前
・がばち 出羽
・川ばち 上総
・ども 伊勢
・ぐゞ 土佐
・(▼ぎゞの参考)
【此魚背{せ}の上に刺{はり}有て人を螫{さ}す、ごき〳〵と鳴く、人これを捕ふ時ははなはだかなしむ声を出す】

(▼享保十三年戊申ノ秋に東国各地にて洪水があり、その後にこの魚が消えた後で鯰が生息し始めたのはぎゞが鯰に変化したのだろうかと吾山は記す。詳細は不明だがこれは鯰の種苗移植が行われたのものと考えられる)

杜父魚 かじか
=いしもち 京、大坂
=ごり 加茂川
 【下賀茂糺{たゞす}森の茶店にてごりを調味{てうみ}してごり汁{じる}と名付て売也】
=いまる 嵯峨
=川をこぜ 伏見
=むこ、どうまん、いしぶし、ちゝこ 近江
=どんぽ 九州
=ねんまる 筑前
=かくふつ 越前
 【加賀越前の土人はごりを鮓{すし}となしてたしみ食ふこれを蛇{じや}の鮓といふ】
 【かくふつといふ物は北海にて雪雹{あられ}の降るとき腹{はら}を上になして水上に浮ぶ魚也『続猿簑』ニ詞書有て
  〽角 魚+孛 {かくふつ}や腹をならべて降るあられ】
=ごす 出雲
=すなほり 伊賀
=かしか 相模、伊豆、駿河、上総、下総、陸奥、其外国々
=かじい 駿河沼津
【今按に此魚種類甚多し其水土によりて形すこしかはり大小の品有といへ共一類別名也と云リ】

・(▼鯊{はぜ}の参考)
・まはぜ 江戸
・だばうはぜ 江戸
 【是は下品也】
・しまはぜ 江戸
 【是かじか也】

・(▼かじかの参考)
【木曽の谷川などにて諸木の倒{たをれ}たる有て年を経{へ}枝くさりて石鮎{ごり}に化すといへりそれを土人ごり木といふ】

鮇魚 かまづか
・かまづか 京
・かまきすご、かなくじり 鴨川
【其形はぜに似て又きすに似たり大イなる物をかじかと云】

吹沙魚 かなびしや
・かなびしや 京
=じんそく 四国
=じやう 肥前
=こちじや 江戸
【谷川の石の間に住小魚也形色共に鯒{こち}に似て小さし其大サ一二寸細{こまか}なる黒点文{こくてんもん}有其尾|岐{また}あらず】

鰺 あぢ
・とつかは 紀州
・とつぱこ 土佐
【小しきなる物】
・こびらこ 西国
・ぢんだん 相州
・さくざね 加賀
・むろあぢ 播州
 【此魚播州室ノ津にて多く捕る故にむろあぢの名有】

文鰩魚 とびうを
・あご 中国、九国(▼きゅうしゅうの事)
【婦人{ふじん}臨産{りんざん}の月是を帯れは産やすしと見えたり今又乳のたるゝ薬なりとて婦女は珍重する也】

和加佐幾 わかさぎ
・すゞめの魚 駿河
・しらさぎ 伯耆
・さくらうを 常陸
 【常州桜川に桜魚と云有是江戸にていふわかさぎ也
  又俳諧季立の中春の部に桜魚と云有これは桜の花盛のころ出る魚を云なをさくら鯛柳鮠{はぜ}なと賞するか如し】
・あまさぎ 若狭
 【今按にわかさぎ又あまさぎ同物也若州三方の湖中に多くこれを猟す】

鱪 しいら
・猫づら 筑紫
・くまびき 薩摩
・かなやま、ひいを 肥前唐津
・とうやく 土佐
 【乾{ほし}て賞翫する時は土州にても、くまびきといふ】
・猫づら、ひいを 江戸
【今按にこの魚海船のかたはらを泳{をよ}ぐ船人急に釣針をなげて忽三ツ四ツ釣事有俗に九万疋と書も是此魚の数多なるをいふなるべし】

伊多 いだ
・いだ 畿内、西国
・がうら 讃岐
・さい、まるた 東国
【此魚上州利根川に多し一説にさいとは犀{さい}の泳{をよ}ぎて走るが如きにたとふ丸太とは山中より材{さい}を山川にうかべ流に任せて下るにたとへたり今按にさいとは材なるべし丸太といへるもおなし心也其魚の円キによるの名なり】

鯎 うぐゐ
・あかうを 信州諏訪{すは}の湖水{こすい}
・あかはら 相州箱根
 【小なる物をやまめといふ】

毛呂古 もろこ[一名しまうを]
・あぶらめ 近江、西国
・もろこ、もつご 土佐
【近江坂本にもろこ川といふ川有此魚多し故にもろこと称す、一説に粟津に木曽義仲ノ社有、かの霊を祭るの日社の辺の小川にて土人もろこ魚をとる必数十斛{こく}を獲{うる}とあり】

石首魚 いしもち
・いしもち 京、江戸
・ぐち 西国、四国
・しろぐち 駿河
【此魚かしらの中に石有よつて名とす、又江戸にてにべいちもちと云有別種なり是にべといふ魚の小なるもの也】

鱁鮧 にべ
【此魚の小なる物】
・しらぶ 土佐
【大なる物】
・ぬべ、そぢ 四国
・そこにべ 備前
【にべとは魚の腹中に鰾膠{にべ}あるゆへに名とす】
(▼鰾膠とは、 ニベ、コイ・ウナギ・サメなどの浮き袋からつくるにかわのことでにべにかわとも読む。植物であるノリウツギやニレの別称としても用いられる)

齋の示が魚 魚 ひゞ
・ふぢかけ 常州水戸
・嶋まはり 佐渡

魟䱡魚 たかべ
・あじろ 讃岐
・とこや 能登

鮠 はゑ
・はや 東国
【はゑは蠅を好て食ふ故になづく但蠅は関西にてはへ関東にてはいといふ】

太刀魚 たちうを
・ながだち 筑前

恵曽 ゑそ
・たいこのぶち 伊勢の白子
・をばあ 土佐国の土人
【漁人のいはくゑそは蛇の化したるもの也と又九州にてをかまがへるの化したる物也ともいへり畿内にて五月の頃水ゑそとよびて賞ス(中略)今按に土佐の国の俗この魚をおばあといふ是は蛇の姨{をば}といふこゝろなるへし】

沙噀 なまこ
・とらご 大坂
・たはらご 筑紫にて正月は
・はつだはら 唐津にては正月十五日まへは
 【正月の中は・たはらと云】
(▼沙噀 なまこの参考)
【『広大和本艸』に沙噀和名タハラゴ今京都の魚舖{うをや}にきんこといふ物なりと見へたり今按に正月朔旦海鼠{なまこ}をたはらごと賞して祝す是米穀の義によりて也ごまめを田つくりと称するも意同し】

海鷂魚 えい
・えぎれ 上方
・あかえい 江戸
(▼えいの種類 品川芝浦での呼び名)
 ・まえい
  【まえいは上品なり(中略)また真鱏{えい}の子いまだ腹に在時は刺{はり}を中につゝみてたとはゞ巻葉の如くにて有】
 ・よこさえい
  【よこさえいは菱{ひし}形にして色白し故にまえいの血をぬりて裁{たち}売となす(中略)又よこさえいの子はあみがさの如く二ツ折になりて刺{はり}を中に隠す物なり】
  (▼裁{たち}売とは切り売りのこと。必要な分だけ切り分けて売ること)
 ・がんぎえい
  【がんぎえいは下品也其形丸く悪臭{か}有】

海鰕 ゑび
・いせゑび 関西、西国
・かまくらゑび 関東
 【又年の始にかざり海老とする物は関東にてもいせゑび也】
【小なる物】
・芝ゑび 江戸
・備前ゑび 大坂

漻鮥 うみじか[和名]
・うじこ 筑紫
・海楊枝 伊豆大嶋

水亀 いしがめ
・こうづ 西国

鼈 すほん[これかはかめ也俗胴{とう}亀と云]
・どんがめ、すつほん 畿内
・すつほん 江戸
・すつほん、かつは 東国
・どろそ 東近江
・まがめ 周防
・どち 伊勢
・とち 肥州
・がめ 加賀、能登、越中、越後
・こがめ 四国

蝦魁 がざめ
・がざみ 畿内
・をゝがに、海かに 江戸

(▼別種のカニ)
 ・かざみ
 【西国にてかざみと云は甲菱形{ひしなり}にして甲{かう}のまはりのこぎりばに似たり】
 ・蟛螖{あしはらがに}
  【古哥にいなつきがにとよめるは是なり】
  =こめつきがに 江戸
  =田うちがに 西国、四国
 ・豆蟹{まめかに}、蜘蛛{くも}蟹【と俗に云】
  =いぞ〳〵 備前小嶋
  【豆蟹小にして形丸し又其かたち蜘に似たり蛤好ンで是を喰ふ又蟹の小なるを蜘がにと呼蜘の小なるをさゝがにと呼こそをかしけれ】
 ・藻{も}蟹 薩州指宿{いぶすき}の浜
 【とて小き蟹を産す寸|許{はかり}にして円也惣身紅色此蟹塩辛に製して其色を変ぜず甲及八足やはらかにして気味香{かうじ}く寔{まこと}に上品なる物也又云藻{も}蟹は藻或はひじきなどに住物也】

(▼カニとヒシコの参考)
【参州にて・岩蟹と云塩辛とす名産也又畿内にてかにびしこと云あり摂州福島辺より出す蟹の塩辛也かにびしこと云は蟹の鯷漬{ひしこづけ}と云へきを略してかにひしこと呼といへり又ひしこといへるは醢{しゝびしを}の誤なりと有さもあらんか】

甲蟹 かぶとかに
・うんきう 筑紫
・ばくちかに 薩摩
・いそほうづき 安房

鬼蟹 をにがに
・嶋むらがに 摂津
・武文{たけふん}かに 兵庫及播州
・平家蟹 讃州
・長田{をさだ}かに 加賀、越前
【これ元弘の乱に秦{はだ}の武文摂州兵庫の海に死す享祿四年細川高国と三好{よし}と摂州に戦ふ細川の家臣島村何某敵二人を挟{さしはさ}んて尼崎{あまかさき}浦に没す故にこれ等の説を後人附会{ふくわい}する所也といふ】

栄螺 さゞえ
・つぼつかい 相州三浦三崎辺
【さゞえのふたを同所にて・とうもいちと云(後略)】

鰒魚 あはび
・かいつけ 上総
 【是は蚫の蓋なくして身は貝につきて有物なれは貝つけといふか貝つきなるへし】
・なまがい 江戸
 【又あがりたる蚫をば・すいけんと云】
・あま貝 泉州境(▼泉州堺のことか)
 【これは海士のとる貝なれは海士貝と云か】
【鮑の小なる物】
・とこぶし
・ながれこ 土佐
【今按にとこふしは蚫の子にはあらす種類也又蚫のわたを西国にて角と云】

蛤蜊 はまぐり
・ぜんな 上総
 【同国にて蛤の大なる物を小だまと云小なるを大玉と云】

浅利貝 あさり貝
・きしめ貝 勢州

朗光 さるぼ
・つめきり貝 勢州
・馬の爪貝 筑紫
・たぶかい、ちがい 土佐

蜆 しゞみ
・ぜゞかい 畿内
 【古哥には堅田の蜆を詠す今は堅田には稀にして勢田に多しせたは膳所に近き故ぜゞ貝といふと也】

塩吹貝 しほふきかい
・とんび貝 伊勢
・つぶ 総州

多伊良木 たいらぎ
・ゑぼし貝 大坂

田螺 たにし
・たにし 畿内、西国、東武、其外国々
・田貝 土佐国
・田づほ、つぶ 北国、房総、駿河、相模、伊勢路
【『和名』に『拾遺本艸』を引て・田つびと書り】

寄居虫 がうな[一名やどかり]
・いそもの 伊豆、駿河
・がなづう 上総
・ほうざい蟹 肥前
【『和名』かみな】

蟶 まて
・かみそり貝 大坂、上総

細螺 きさご
・いしやらがい 中国
・ごながら 伊勢
・こぶら 肥の唐津

石蜐 かめのて
・しゐ つくし
 [しゐとは其形椎{しゐ}の実の上皮のゑみたるに似たる故名づく]
・ひとで 武之品川辺
・たこのゑんざ 上総

海馬 かいば
・たつのをろしご 佐渡
・竜の駒 薩州
・うみむま 畿内
【是婦人安産の守とす】

和尚魚 をしやううを
・海坊主{うみばうず} 西海
・正覚坊{がくばう} 下総銚子浦
【むかし僧有此江に溺{をほれ}死す其幽魂{ゆうこん}こゝに止りてたま〳〵顕{あらはる}容{かたち}泥亀のごとくにて四ツの手足指わからず頭は猫の如しこれを捕得る時は漁人あはれみて酒を飲せて命をたすく】

物類称呼原文及び参考資料

諸国方言物類称呼 越谷吾山 日本語史研究資料 [国立国語研究所蔵]より

諸国方言物類称呼 巻二 テキストデータ

pdf版を原本として読み、その後テキストデータで確認した、物類称呼の岩波文庫版は未見。

終わりに

史学演習で崩し字読んでた頃を思い出したwネットのお陰もあってまぁ読みやすくなったと実感しましたよ、ホントに。
国立国語研究所によるテキストデータも作られていたのは助かった、読めない字が意外にあったのでねぇテヘヘ。

あさぢやたつくりなど探していた産物帳記載の魚名方言も一部見つかったし、コノシロやブリに関する記述も今後の参考になった。
魚種の標準和名の比定をしておこうかとも思ってたけど、なんとなく不安になったので今回はやめておくことにしてあげよう^^

まぁ物類称呼に記されている方言は魚名だけじゃないので時間がある時にじっくりと読んでみたいと思う、なんとか文庫版でも手に入れば嬉しいんだけどなぁ。

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