熊本県 海産魚類・生物等の方言・地方名

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熊本県 海産魚名方言

熊本県(肥後国)の海産魚類・生物の魚名語彙(方言・地方名)の一覧表、今後も新たな情報、史資料等にて入手した方言・地方名は暫時追加する。

地理環境から有明海、天草諸島、八代海の各範囲に留意する必要があると考えたため、有明海とされる語彙も記載した。これらは熊本に無い場合もあるが多くは、他県(福岡、熊本、長崎)と関係が深い事が多い。

有明海は地理的形状だけでなく日本最大の干潟・独自の生物相などで知られるが、魚名方言を見ていくことで地域の相互関連も分かるだろうと思う。
独自の生物相からの郷土料理の文化、ボラよりもメナダの方に価値を見ていたり、アリアケシラウオを「トノサンイヲ」と呼びシラウオと区別したりと云う点等々と興味深い事例が多い。
一方で中世の肥後国北部に根を張っていた菊池氏は有明海を越えた島原半島との関係が強かったようで、中世から戦国末期に自家(武家)が移動したという各種口伝等との比較のためにも深く知りたい場所である。

また、天草諸島の魚名方言にも注目することで往時の文化面や経済面の交流を見たいとも考えている。
例えば大分県南部と愛媛県南西部は海を挟んで魚名方言の類似例が見られ瀬戸内海西部を考える上での鍵ともなるのだが、天草諸島も魚名方言の比較からどのような交流・交易があったのかも見られるのではと考えている。

今後は市町村や漁港単位での各魚種名を収集することでより正確な分布範囲が見えるだろうし、筑肥方言や地域・文化圏との比較考察の一助としたい。

熊本県内の海産魚名語彙一覧

①名称=一般的な名称や標準和名
②魚名=収集魚名・漢字

※名称の分類は歴史民俗を考察していく上で個人の試験的なもの。タイ類、ハヤ類など代表的な魚名を基に類似の名称を持つ魚類を分類しアイウエオ順に並べた。魚類学の科目等とは異なる点があるので注意。

※旧熊本藩領とは、天草郡、球磨郡、八代市の一部を除いた熊本県内域。
※玉名郡誌による魚名は、一部に曖昧なものがある点に留意。

①名称②魚名方言名地域・資料番号・備考等
アイゴ海あゆウミアユ旧熊本藩領 17-50
※発音は「うみあゆ」でなく、「うみあい」よりか。宮崎でもウミアイと呼ぶようだ。
アイゴうみあいウミアイ熊本県、有明海 W02
アイゴうみあいウミアイ熊本 甲1 #11,48
アイゴしょおべんうをショオベンウヲ熊本 甲1 #11,48
アイゴやんいよ、やんのいおヤンイヨ、ヤンノイオ上天草市大矢野町・苓北町 W02
アイゴやー、やのうお、ばりヤー、ヤノウオ、バリ天草地方 W19
アイゴやなぎうおヤナギウオ八代 甲2 #97
アイナメあぶらめ、もちうおアブラメ、モチウオ八代 甲2 #97
アイナメもちうおモチウオ八代 W02
クジメたばみタバミ肥後地方 甲1 #95
クジメもちうおモチウオ有明海 W02
アジ・マアジ鯵[アヂ]アヂ旧熊本藩領 17-50
アジ・マアジあじごアジゴ(幼)天草地方 W19
アジ・マアジあぢアヂ玉名郡 H02
※「有明海に稀に漁せらる」、と。
アジ・マアジあじ、あじ子、雑魚アジ>アジゴ>ザッコ上天草市大矢野町 W02
ムロアジむろあぢムロ、ムロアヂ玉名郡 H02
カイワリひらあじ、めっきヒラアジ、メッキ天草地方 W19
カイワリ銀あじギンアジ熊本、有明海 W02
シマアジひらあじヒラアジ熊本 甲1 #48、熊本 W02
シマアジしまいっさきシマイッサキ熊本県、有明海 W02
アナゴあなこアナコ旧熊本藩領 17-50
マアナゴどぐらドグラ有明海 W02
クロアナゴかろぐらログラ旧熊本藩領 17-50
※「あなこ」が既出の為、「ろぐら」は天草のクロアナゴ方言の「ドグラ」を参考にした。
クロアナゴどぐらドグラ上天草市大矢野町 W02
アンコウ花臍魚[アンコウ]アンコウ旧熊本藩領 17-50
イカ烏賊[イカ]イカ旧熊本藩領 17-50
アオリイカ水イカミズイカ天草地方 W19
ケンサキイカやりいかヤリイカ熊本市 W02
コウイカついかツイカ天草地方 W19
ヒイカ(ジンドウイカ)か?ひいかヒイカ旧熊本藩領 17-50
ヤリイカとんきゅトンキュ天草 W02
イサキいっさきイッサキ天草地方 W19
イサキいっさきイッサキ熊本 甲1 #8,10,12。
八代 甲2 #97
上天草市大矢野町 W02
イサキいっさき、しまうおイッサキ、シマウオ熊本県 (註1)
※「骨が硬く鋭いことから「鍛冶屋(かじや)殺し」とも呼ばれる」と。
イルカ海豚[イルカ]イルカ旧熊本藩領 17-50
イルカ眞いるかテングイルカ玉名郡 H02
※「珍ラシク漁セラル」と。
イワシイワシ旧熊本藩領 17-50
イワシマイワシ玉名郡 H02
イワシいわしごイワシゴ有明海 W02
ウルメイワシううめいわし
おおめいわし
ウウメイワシ
オオメイワシ
熊本 甲1 #8,11,48
ウルメイワシほおめいわしホオメイワシ熊本 甲2 #97
ウルメイワシううめ、ぎどウウメ、ギド有明海 W02
ウルメイワシおおめいわし(大目鰯)、ううめいわしオオメイワシ、ウウメイワシ熊本県 W02
カタクチイワシ・セグロイワシすうげんいわし、たれ、えたりいわしスウゲンイワシ、タレ、エタリイワシ有明海 W02
カタクチイワシせぐろいわしタレクチ(幼)玉名郡横島 H02
カタクチイワシせぐろいわしコシナガ、ホホタレ玉名郡 H02
※「幼魚ノ間良ク有明灣ニ来ル」と。
※「タタミイワシ」は「せぐろいわし」の幼魚を乾燥させたものを云う。
カタクチイワシか?たれくちタレクチ旧熊本藩領 17-50
※有明海で「タレ」、「タレッソ」、「エタリイワシ」等。
 福岡県玄界灘で「エダレ」、長崎で「エタリ」、「エタリガッチョ」、鹿児島県で「アオダレ」、「クロダレ」。
ウツボきだこキダコ天草地方 W19
天草市 W02
アカウニほたうにホタウニ天草地方 W19
ムラサキウニくろうにクロウニ天草地方 W19
ギンポぎんぽウミドヂヨウ玉名郡横島 H02
ギンポ銀寶タレバカ玉名郡 H02
ウミヘビ
エイ海鰩魚[エイ]エイ旧熊本藩領 17-50
エイ・アカエイ赤ゑひキヱヒ、マエヒ玉名郡 H02
モヨウカスベすえいスエイ天草市 W02
エソゑそヱソ旧熊本藩領 17-50
エソ・マエソへえ、もどろヘエ、モドロ有明海 W02
オキエソしまえそシマエソ肥後地方 甲1 #95
エビ海老エビ旧熊本藩領 17-50
サクラエビ?
アキアミ?
ごあみ
まあみ
ゴアミ
マアミ
旧熊本藩領 17-50
※アミから推測。
テナガエビ等か?たくまタクマ旧熊本藩領 17-50
※九州での川エビ方言名からだが、正確なところは不明。
オコゼかおごせオゴセ旧熊本藩領 17-50
オニオコゼおこぜオコゼ熊本 甲1 #48
オニオコゼおくしオクシ有明海 W02
アサリつくしぎゃあツクシギャア天草・八代地方 (註1)
カサゴがらかぶガラカブ天草地方 W19
カサゴがらかぶガラカブ熊本市、上天草市 W02
カサゴからかぶカラカブ熊本、有明海 W02
カサゴがらかぶガラカブ熊本 甲1 #8
カサゴがらこじガラコジ天草市牛深 ☆
アヤメカサゴがらかぶガラカブ熊本 甲1 #48
ミノカサゴはなおこぜハナオコゼ上天草市大矢野町 W02
ミノカサゴむねいおムネイヲ有明海 W02
マカジキまかじきハイヲ、バリン天草島 甲1 #71
※対馬でも同様に呼ぶ。
マカジキまかじきハイオ肥後地方 甲1 #95
※「肥前五島、筑前」も同様と。
メカジキめかじきハイオ熊本 甲2 #97
カツオ本がつおホンガツオ熊本市 W02
※カツオはソウダガツオ類の事がある。
カツヲかつをカツヲ旧熊本藩領 17-50
マナガツオ魴魚[マナカツヲ]マナカツヲ旧熊本藩領 17-50
マナガツオまながつおマナガタ熊本縣 甲1 #11
カナガシラかながしらカナガシラ玉名郡 H02
※「市場ニ多シ」と。
イゴタカホデリかながしらカナガシラ熊本 甲1 #11
※長崎でカナガシラ類を「ほでり」といい、鱗を「いご」という。
ガザミ・ワタリガニわたりがにワタリガニ天草地方 W19
アカカマスあかかますアカカマス天草地方 W19
アカカマスあかかますカマス熊本 甲1 #11
ヤマトカマスあおかますアオカマス天草地方 W19
カレイ比目魚[カレイ]カレイ旧熊本藩領 17-50
カレイ・メイタガレイめいたがれいコノハガレイ玉名郡 H02
※同郡ではメイタガレイ(ホンメイタ)には数種の名称が見られる。
カレイ・メイタガレイめいたがれいメダカ肥後地方 甲1 #95
上天草市大矢野町 W02
カレイ・メイタガレイまつばがれいメヂカ玉名郡 H02
カレイ・メイタガレイこのはがれいマツバガレイ玉名郡 H02
カレイ・メイタガレイめんたがれいメンタガレイ熊本 甲1 #48
熊本、有明海 W02
カレイ類 ?不明しまがれいシマガレイ玉名郡 H02
※シマウシノシタかもしれない。
ムシガレイみずがれいミズガレイ上天草市大矢野町 W02
キス鱚[キス]キス旧熊本藩領 17-50
キスきすごキツゴ
キズコ、ギス
有明海 H02
玉名郡 H02
キスはなまがりハナマガリ玉名郡 H02
キスしらぎす、しろぎすシラギス、シロギス玉名郡 H02
※アヲギスに対してか。
キスきすこキスコ熊本 甲1 #11
キスきすごキスゴ上天草市大矢野町 W02
アオギスあをぎすアヲギス玉名郡 H02
グチ・シログチいしもちシラクチ、シラグチ熊本 甲1 #7,48
※グチ(総称)としてあり、シラグチ=シログチとアカグチ=ニベと分類していたのではと推測。
※長崎ではグチがアカグチとされる。熊本と異なるのは、何らかの理由があるのかもしれない。
グチ・シログチいしもちイシモチ玉名郡 H02
グチ・シログチしらぐち、いしもちシラグチ、イシモチ有明海 (註2)
グチしらぐちシラグチ玉名郡 H02
コイチあかぐち、きんぐちアカグチ、キングチ有明海 (註2)
ニベ赤ぐちアカグチ熊本、有明海 W02
ニベ赤くちアカクチ旧熊本藩領 17-50
※有明海では「赤グチ」はニベとのことから。
※福岡県久留米市方面では「アカクチ」とはコイの事となる。
ニベあかぐちアカグチ玉名郡 H02
ニベあかぐちアカグチ熊本 甲1 #7,11,48
コチ・マゴチコチ旧熊本藩領 17-50
コチ・マゴチぜにごちゼニゴチ玉名郡 H02
※長崎等でも呼ばれている事を参考。
コチこちムギメ玉名郡 H02
ヨシノゴチ白ごちシロゴチ上天草市大矢野町 W02
ヨシノゴチ(シロゴチ)か?かいめこちカイメコチ旧熊本藩領 17-50
※天草での呼称から推測。
※「カイメ」は、九州及び有明海ではサカタザメとなる例もあるため注意。
コノシロ鱅魚[コノシロ]コノシロ旧熊本藩領 17-50
コノシロつなしツナシ玉名郡 H02
※ツナシはサッパにも見られる呼称。
コノシロつなしツナシ熊本県 (註1)
サッパはだらハダラ旧熊本藩領 17-50
熊本 甲1 #8
※天草及び有明海でも。
サッパはだらハダラ八代 甲2 #97
ヒラかひらヒラ旧熊本藩領 17-50
※ヒラメやヒラマサなどではなく、素直にニシン科のヒラだろう。近年では「有明ターポン」と釣り人から呼ばれている模様。
ヒラひらヒラコノシロ玉名郡 H02
サバ
サメふかフカ旧熊本藩領 17-50
※熊本県だけでなく、九州全般でフカと呼んでいた。「物類称呼」他にも記される。
アオザメあおじアオジ熊本 甲2 #97
サカタザメこちけえめんコチケエメン有明海 W02
サカタザメけいめケイメ熊本県、有明海 W02
サカタザメか不明?こて魚コテウヲ旧熊本藩領 17-50
※長崎県ではサカタザメを「コテ」と呼ぶから推測。
サメ・シロザメか?のうぞうノウゾウ旧熊本藩領 17-50
※フカの意か? 天草にて「ノソ」はシロザメを云う。
シュモクザメねんぶつネンブツ天草 甲1 #48
※種はアカとシロに分かれるが、方言から分類ははっきりしない。
※全国的にシュモクザメは大きく3つの命名が見え、「丁字形の棒」、「小舟=カセ」、「念仏」系の命名になりそう。
※西国では「ネンブツボオ(甲1 A127)」ともある。沖縄の「イーヘーサバ(甲1 #50)」は位牌から等が参考になるだろう。
シロザメのそノソ上天草市大矢野町 W02
ツノザメ・フトツノザメさめサメ熊本県 甲1 #11
ネコザメか?さゞいわりサザイワリ旧熊本藩領 17-50
※福岡県にて「サデワリ」、長崎県にて「サデエワリ」、「シャジャワリ」、三重県にて「サザイワリ」などを参考にした。
※「栄螺割」に由来するとか。
ホシザメのそノソ八代 甲2 #97
ホシザメのうそ、のうそうノウソ、ノウソウ熊本市 W02
サヨリ鱵魚[サヨリ]サヨリ旧熊本藩領 17-50
サヨリさいよりサイヨリ玉名郡 H02
サヨリながいわしナガイワシ玉名郡 H02
サワラさわらサワラ旧熊本藩領 17-50
サワラ(小)?
ウシサワラか?
さごしサゴシ旧熊本藩領 17-50
※サワラは同史料にて既出。サゴシ<ヤナギ<サワラと出世するが東京、神奈川、和歌山に四国辺りが中心。
※鹿児島県や長崎県では「サゴシ」はウシサワラでこちらの方が有力かと。
サワラさしごサシゴ天草地方 W19
シイラまんびきマンビキ天草地方 W19
※長崎、鹿児島でも「マンビキ」が多い。釣り人なら「ヒキ」を「引き」と思うかもだが、「匹」の意。一度に沢山獲れるために「万匹」という。
※西北紀州などでは干物にするため「ヒウオ」、「ヒノウオ」とも。九州での価値はあまり高くなかったようだ。
シイラまんびきマンビキ熊本 甲1 #48
【標】シラウオだろう鱠残魚[シロウヲ]シロウヲ旧熊本藩領 17-50
※漢字で記す際には、白魚、鱠残魚、王余魚、銀魚など。漢字使用例から「シラウオ」かと。
※川白魚の例からもどちらも訓はシロウオで、川を付けて区別していたのではと考えておく。
シラウオ・アリアケシラウオシラウヲシラウヲ熊本県 甲1 #11
※アリアケシラウオは熊本県北部沿岸に生息。佐賀県には、シラウオ、アリアケヒメシラウオ、アリアケシラウオの3種が生息。シラウオとアリアケヒメシラウオはほとんど区別されないが、このアリアケシラウオだけは「殿様が食べる魚」の意味の「とんさんいお」として区別される。
【標】シロウオだろう川白魚カワシロウヲ?
カワシラウヲ?
旧熊本藩領 17-50
※同史料川魚の部に記載される。漢字では素魚、白魚。
※川漁が盛んなのがシロウオ、シラウオは漢字よりいけたので、川白魚は「シロウオ」に比定しておく。
シャコしやくシヤク旧熊本藩領 17-50
※熊本や福岡の有明海でアナジャコを「シャク」や「マジャク」と呼ぶ。
スズキせいごセイゴ(幼)玉名郡 H02
※「五六寸位ノ称」とある。
ムラソイ黒がらかぶクロガラカブ上天草市大矢野町 W02
※ソイ類の漁獲は少ないのか、現段階では見えてこない。
タイ・マダイマダイ旧熊本藩領 17-50
アマダイあまたいアマタイ旧熊本藩領 17-50
※豊後国の産物帳ではアマダイは「くつなたい」と記されている。同史料には別に「くつな」の記載があるため、注意を要す。
イシダイしまだいシマダイ天草地方 W19
イシダイひさだい(久鯛)ヒサダイ上天草市大矢野町 W02
※長崎ではヒサ、ヒサンダイ等も。
イシダイすさスサ熊本 甲2 #97
イトヨリダイ糸よりたいイトヨリタイ旧熊本藩領 17-50
イボダイ・エボダイもちうおモチウオ天草地方 W19
イボダイ・エボダイぎち、てちよおギチ、テチヨオ熊本 甲1 #48
イボダイ・エボダイもちうお、しずモチウオ、シズ熊本県 (註1)
イボダイ・エボダイてらふテラフ熊本県、有明海 W02
キダイれんこだいレンコダイ上天草市大矢野町 W02
キダイ・レンコダイしば
ちゅうれん
れんこ
シバ(幼)
チュウレン(中型)
レンコ
熊本 甲1 #20
※「しば」という言葉だが、長崎でタイの幼魚を「シバダイ」、大阪・関西ではキダイの幼魚を「シバレンコ」という方言が在る点に注目し、他にもシバの使用例(特に幼魚という点)を見ていきたい。
※甲1にては記されていないが、出世魚と考えて良さそうだ。
キダイ・レンコダイしば
ちゅうれん
れんこ
シバ(幼)
チュウレン(幼)
レンコ
熊本 甲2 #97
キダイ・レンコダイはなふりだいハナフリダイ熊本 甲1 #7,11,48
※「ハナオレダイは長崎」と甲1に記される。
不明?
キダイかチダイか?
はなをれだひアカメ、キンコダヒ、キンダヒ、ニダヒ、ハジロ、バシロ、バンジロ、ハナヲレ、ベニコダヒ、マコダヒ玉名郡 H02
※同書にてハナオレダイは、キダイとチダイに見られる名称のため不明。またアカメはメナダの成長段階にも見られる名称。
※玉名郡のみで名称にこれだけの種類があるのにはかなりの驚きがあるが、同資料には他地域の方言(但書有)も入っているので注意し、参考としてみておきたい。
※甲1により出世魚と考えているが、玉名郡の語彙が本当にキダイ関連なら可能性はより高くなると思う。
クロダイちんたいチンタイ旧熊本藩領 17-50
クロダイ黒鯛チヌ、マチヌ玉名郡 H02
コショウダイこしよおだいナナフウ熊本 甲2 #97
コショウダイここだい、七通(ひっつう)、七つ(ななつ)ココダイ、ヒッツウ、ナナツ上天草市大矢野町 W02
コショウダイこーこ、らっぱこーこコーコ、ラッパコーコ天草 W02
コロダイえのみだいエノミダイ上天草市大矢野町 W02
コロダイえのみエノミ熊本市 W02
コロダイまこーこマコーコ天草市 W02
コロダイよのみだいヨノミダイ上天草市大矢野町 W02
セトダイこおこだいコオコダイ熊本 甲1 #48
セトダイこうごだい、こおごだいコウゴダイ、コオゴダイ熊本 W02
セトダイこうこだい、こおこだいコウコダイ、コオコダイ熊本、有明海 W02
タカノハダイきっこりキッコリ天草地方 W19
タカノハダイあんこうアンコウ有明海 W02
タカノハダイたかのはタカノハ八代 甲2 #97
チダイちこだいチコダイ八代 甲2 #97
※キダイに比べチダイ方言は少ない。ハナヲレ、ハナフリ他の名称でキダイと分類していなかったのかもしれない。
テンジクダイぶうぶうざつこブウブウザツコ熊本 甲1 #8,11,48
ヒゲソリダイちんかチンカ天草 W02
ヒゲソリダイか?ちんくわチンクワ旧熊本藩領 17-50
※天草でのヒゲソリダイ呼称の「チンカ」から。
ハマフエフキたまみ、たばみタマミ、タバミ熊本 甲1 #2
※「タマミは玉見(W02)」とも。
ハマフエフキたばめタバメ熊本 甲1 #48
※「タバメ」は、ヨコスジフエダイにも見られる名前。
フエフキダイくちびクチビ熊本 甲1 #8
※「クチミ、クチビ等の名称は口中が美しい紅色を呈して居るに依るか」とある。関西、和歌山、高知、熊本等。
フエフキダイくちみたいクチミタイ旧熊本藩領 17-50
※長崎県では「クチビ」、「クチビダイ」、「クチブダイ」が残るを参考にした。
※甲1にもクチビの記述有。
ブダイもはんモハン熊本 甲1 #48
ヘダイすさでスサデ有明海 W02
マトウダイまとだひカネタタキ
スコベ
玉名郡 H02
マトウダイまとおだいモンツキイヲ熊本 甲1 #48
マトウダイもんつき(紋付)、もんつきいお、もんつきうおモンツキ、モンツキイオ、モンツキウオ熊本、有明海 W02
マツカサウオいきがきうをイキガキウヲ熊本 甲1 #2,7,8,48
ミギマキおたつだいオタツダイ熊本 甲1 #11,48
※和歌山県の一部では「オケイサン」で、『昔おけいという濃艶な装いの女が居たため』と伝わる。
メイチダイたるめタルメ熊本 甲2 #97
メダイたるめタルメ上天草市大矢野町 W02
ヨコスジフエダイたばめ、まつだいタバメ、マツダイ熊本 甲1 #11
ヨコスジフエダイえみずエミズ天草 W02
メイチダイか?メダイか?たわめたいタワメタイ旧熊本藩領 17-50
※タルメの古い形で、タルメに転訛したと推測する。下段参考にオフメタイ=メイチダイなら、タワメタイ=メダイとなる。
メイチダイか?ミギマキか?おふめたいオフメタイ旧熊本藩領 17-50
※メイチダイは長崎県で「おおめだい」というのを参考にした。中々の高級魚。
※「おうめ」ならお梅? オタツダイ絡みでミギマキも候補か?
セトダイか?コショウダイか?(ヒゲダイ、ヒゲソリダイ等も候補)かうこたいカウコタイ旧熊本藩領 17-50
※コショウダイ、ヒゲダイ、ヒゲソリダイ、セトダイ等が候補。おそらくは上記の総称としてのカウコタイと考えられる。
熊本県及び有明海周辺で「コウコダイ」、「コオコダイ」。もしくは「コウゴダイ」、「コオゴダイ」。また「コダイ」、「チンカ」、「コーコ」なども県内で混濁しているかと。
※天草では「ナナツ」や「ナナフウ」ともありこれはコショウダイ。
タカベしまうをシマウヲ熊本 甲1 #48
タコ章魚[タコ]タコ旧熊本藩領 17-50
タチウオたち魚タチウヲ旧熊本藩領 17-50
テンジクタチてんじくたちタチウヲ熊本 甲1 #11
ダツ
タツノオトシゴじやのこジヤノコ玉名郡 H02
ウミタナゴあかたなごアカタナゴ上天草市大矢野町 W02
トビウオ文鰩魚[トビウヲ]トビウヲ旧熊本藩領 17-50
キビナゴかなぎカナギ天草地方 W19
※塩を振った新鮮なきびなごを金網で焼く「ブス焼き」は天草の名物料理。
ナマコなまこナマコ旧熊本藩領 17-50
ゴンズイか?はちふりハチフリ旧熊本藩領 17-50
※同史料川魚の項にもある。
ネズミゴチのどぐさりヨドゴチ熊本 甲1 #8,11,48
ウマヅラハギながこべ(長こべ)
べとこん
ナガコベ
ベトコン
上天草市大矢野町 W02
天草市 W02
カワハギこーべコーベ天草地方 W19
※三角のニザダイ方言「スコベ」等からも、「コベ」はハギ類の総称であったのかもしれない。ただし17-50には見られないので、それ以後に形作られたと推測。
カワハギこんのおコンノオ熊本 甲1 #8,11,200
※17-50 「こんの魚」と関連ありか?
ニザダイすこべスコベ熊本縣三角 甲1 #8
※ニザダイは科の魚名にも「○○ハギ」の名が多く、方言もハギ・ハゲが顕著なためタイ類でなくハギ類に。
ハゼはぜハゼ旧熊本藩領 17-50
アカハゼか?がたはせガタハセ旧熊本藩領 17-50
※参考にしたのは、長崎県雲仙の方言「ガタドンボ」。ガタは泥や干潟のことで、「ドンボ」はハゼ類の総称。
ムツゴロウ六つ五郎ムツゴロウ旧熊本藩領 17-50
ムツゴロウむつごらうムツゴラウ玉名郡 H02
キジハタ・アコウあこうアコウ旧熊本藩領 17-50
キジハタあこうアコウ上天草市大矢野町 W02
クエ・アラあらアラ旧熊本藩領 17-50
クエあらアラ天草地方 W19
クエあらタラ熊本 甲1 #7
クエあらスケソウ熊本地方 甲1 #95
イシナギ・オオクチイシナギいしあら、いしづりイシアラ、イシヅリ熊本 甲1 #20
マハタまあらマアラ八代 甲2 #97
マハタたかばタカバ上天草市大矢野町 W02
アオハタきあこうキアコウ上天草市大矢野町 W02
ハモ海鰻[ハモ]ハモ旧熊本藩領 17-50
ヒイラギひいらぎシイノフタ熊本 甲1 #48
ヒイラギひいらぎイシノフタ肥後地方 甲1 #95
※誤記でなければ、面白い変化となる。
ヒイラギ椎葉(しいば)シイバ上天草市大矢野町 W02
ヒメジべにさしベニサシ天草市 W02
アカシタビラメあかくっぞこ(あかくつぞこ)アカクッゾコ上天草市大矢野町 W02
ウシノシタうしのしたウシノシタ旧熊本藩領 17-50
※クチゾコと分類されていたことが分かる。
ウシノシタくつぞこクツゾコ玉名郡荒尾、横島 H02
クロウシノシタ・シタビラメくちぞこクチゾコ熊本 甲1 #48
クロウシノシタ・シタビラメくぢぞこクヂゾコ熊本 甲1 #11
クロウシノシタ・シタビラメくつぞこクツゾコ熊本 甲1 #48,92
コウライアカシタビラメか?あかしたびらめクツゾコ玉名郡 H02
※クツゾコはシタビラメ類の総称か。
コウライアカシタビラメくろくっぞこ(くろくつぞこ)クロクッゾコ上天草市大矢野町 W02
シタビラメ鞵底魚[クチゾコ]クチゾコ旧熊本藩領 17-50
※有明海、熊本、佐賀などで、「クツゾコ」、「クチゾコ」、「クヂゾコ」。
ヒラメあをばかれひアヲバカレヒ玉名郡 H02
※「常ニヒシコ、ネヅツポ、オコゼ、キヌ、小烏賊、アミ、蝦類を食フ」と。
フグ河豚[フグ]フグ旧熊本藩領 17-50
フグまふぐマフグ玉名郡 H02
コモンフグなごやナゴヤ上天草市大矢野町 W02
サバフグ(シロ・クロ)きんぶくキンブク熊本縣三角 甲1 #8
サバフグ(シロ・クロ)ぎんぶくギンブク肥後三角 甲1 #7
ショウサイフグしよおさいふぐスズメフグ、フグ熊本 甲1 #7
ショウサイフグしよおさいふぐマフク熊本縣 甲1 #11
ショウサイフグしよおさいふぐマフグ天草牛深 甲1 #7
シロサバフグかなとふぐカナトフグ天草市 W02
ヒガンフグあかめふぐアカメフグ天草 甲1 #7
ヒガンフグあかめふぐマフグ天草 甲1 #11
ブリぶりシロバラ(参考)
ハナジロ(参考)
九州地方 甲1 #11
九州地方 甲1 #17
※ブリ名稱の少なさは、熊本県はブリの漁獲高が少ないことも理由か。
ブリもじゃこ<やずこ<やず<はまち<ぶりモジャコ<ヤズコ<ヤズ<ハマチ<ブリ熊本県 (註1)
※現時点では参考。
カンパチつびきツビキ熊本 甲2 #97
イラはんた、ばんたハンタ、バンタ天草地方 W19
イラはんたハンタ現天草市牛深 W02
上天草市大矢野町 W02
キュウセンあをべらアヲベラ(♂)熊本 甲1 #48
キュウセンくさびクサビ上天草市大矢野町 W02
キュウセンくさびクサビ旧熊本藩領 17-50
※「クサビ」は長崎県や天草にてベラ系の魚を云うから推測。
ササノハベラあかべらアカベラ熊本 甲1 #48
※現在はアカササノハベラ、ホシササノハベラに分けられている。
ホウボウほおぼお(参考)コノウヲ
ホコノウヲ
九州 甲1 #12,19
九州 甲1 #11
※魚種不明の「こんの魚(17-50)」の関連も考えたが、ホコノウヲのホが落ちたと考える方が素直だろう。
ボラボラ旧熊本藩領 17-50
ボラぼらエブナ、クロメ熊本 甲1 #48
※クロメは肥前、筑前でも使用する。
ボラくろめクロメ(5,6寸)肥後地方 甲1 #95
メナダしくちシクチ旧熊本藩領 17-50
※有明海の高級魚の一つ。江戸期以前のボラは価値が高いが、有明海では古くよりメナダの方が好まれたという。
※現在有明海に残る表現は、エビナゴ→エビナ→アカメ→ヤスミ→ナヨシと成長。
メナダしくち(朱口)シクチ三角町、上天草市大矢野町 W02
メナダか?あかめ
やすみ
アカメ
ヤスミ
旧熊本藩領 17-50
※メナダの出世段階かと。同史料にシクチ以外に幾つか記されることから重要魚種であったことが想定される。
メナダあかめぼら、しゅくちぼらヤスミ
シクチ
玉名郡荒尾 H02
玉名郡横島 H02
メナダえびなヤスミ
アカメ
玉名郡荒尾 H02
玉名郡横島 H02
※大きさ等の記載はないためメナダの成長段階は不明。地域毎に異なることが窺われる。
 特に同郡荒尾はヤスミで統一されているようだ。
※ボラと同様にカラスミを作る。
メナダからすみぼらヤスミ
ヨテ
玉名郡荒尾 H02
玉名郡横島 H02
メナダめなだエブナ(四寸以内)、シュクチ熊本 甲1 #17
※「柳川ではエビナ(甲1)」と。
マグロ、クロマグロ(ホンマグロ)しびシビ八代 甲2 #97
サクラマスマス旧熊本藩領 17-50
マンボウ
ムツむつムツ旧熊本藩領 17-50
※有明海ではムツゴロウを「ムツ」や「ホンムツ」と呼ぶ場合があるが、これはクロムツ等のムツ類で良いだろう。
メジナか黒たいクロタイ旧熊本藩領 17-50
※同史料のタイの項目内に記されていた。熊本藩領では、タイ類との認識があったのだろう。
メジナぶれブレ熊本 甲1 #48
メジナくろだいクロダイ八代 甲2 #97
メバルめはるメハル旧熊本藩領 17-50
メバル黒目張魚モウヲ玉名郡 H02
ヤガラ
ワカメ・クロメめのはメノハ天草地方 W19
※「わか」は「若い」を意味し、「め」は「藻」と同じ意味。海藻類全般を指す言葉。
?不明すじスジ旧熊本藩領 17-50
アイナメかイボダイか?もち魚モチウヲ旧熊本藩領 17-50
※県北、有明海、長崎ではイボダイなのだが、八代方面ではアイナメなので今後の調査待ち。
?不明とあげトアゲ旧熊本藩領 17-50
?不明しらけシラケ旧熊本藩領 17-50
?不明かたふつカタフツ旧熊本藩領 17-50
?不明、サカタザメか?こて魚コテウヲ旧熊本藩領 17-50
※長崎県ではサカタザメを「コテ」と呼ぶから推測。
?不明ふくらフクラ旧熊本藩領 17-50
?不明ざこザコ旧熊本藩領 17-50
※有明海を主に考えるとアジの幼魚が有力か。
コバンザメか?船ばりフナバリ旧熊本藩領 17-50
※ハリは張付くか? 熊本方言にも「こばりつく」=「こびり付く」とあり、船底にもくっつく「コバンザメ」と推測。
 他地域の類例にフナツキ、フナスリ、フナスイ、フナトメ等がある。
?不明かうさりカウサリ旧熊本藩領 17-50
?不明つずの魚ツズノウヲ旧熊本藩領 17-50
カワハギ?ホウボウ?こんの魚コンノウヲ旧熊本藩領 17-50
※甲1のカワハギ方言に「コンノヲ」あり、また九州全体としてホウボウ方言に「コノウヲ」もある。
?不明かの魚カノウヲ旧熊本藩領 17-50
?不明くつなクツナ旧熊本藩領 17-50
※豊後国産物帳には「クズナ」=アマダイの名が見えるが、肥後国産物帳では既出となる。出世魚なのか、別魚が調査中。

魚名語彙の注意事項

【凡例】
●収集魚名・漢字の項では、史資料の場合は方言に対応する一般名稱もしくは方言等を記している場合がある。
●汽水域や海水に見られる魚も史料によっては記載されているので、記載があるものは淡水魚海水魚の両方に入れる。そのため、一部は魚名は重複する場合がある。
●資料番号は下記の史資料一覧頁による。

魚名方言研究のための史資料一覧
魚名方言の研究及び調査において、参考とした書籍、史資料、研究報告、論文、WEB頁...

●サーバーとの関連で対応できない一部の漢字は魚+〇等で示した。

【注意事項】
●史資料により調査の正確性に差がある上、時間をある程度遡ることも目的の一つなので、魚類学等の分類は参考にしつつ、できるだけ一般的な名称を基にした分類を心がけた。
●標準和名や詳細な魚類の分類も学会等によるものであり、往時を過ごしてきた人々とその言語や歴史民俗性を考察していく上ではあまり重視する必要はないと考えている。また、差別等で変更になった標準和名及びその変更背景も研究・調査の対象である。
●魚類学等の事典・報告書等でも記される総称・混同・混称という言葉も使用するが、それは細分化された新たな知見によるものであり分類がされていなかった事を不明とするものではない。現在とは違う地域による当時からの魚の分類であり各魚種に対する基準判断でもあると考えている。
●資料等では旧国郡名及び旧市町村名等が出てくるが基本的にはそのままとした。平成の大合併等もあって分かりにくい部分もある点は今後の課題。

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