タキタロウ考 其壱 大鳥池と巨大魚の伝説

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タキタロウ考 其壱

イワナの魚名語彙について調べる中でタキタロウの伝説について、民俗学徒として興味深い内容があったので「タキタロウ考」として纏めておこうかと♪ 簡単に書けるはずだったのが、なんだかんだと抑えておくべきことが増えてしまったので分割して掲載。

伝承や史料を見ていくともう一つのタキタロウが見えてくるのでは?という試論でもあるようなw

このタキタロウは山形県鶴岡市(旧東田川郡朝日村)の大鳥池に居ると言われている幻の巨大魚、この言葉から溢れる浪漫に胸おどらせた釣り人も多いと思う。
1970年代半ばの『釣りキチ三平』で「O池の滝太郎」として全国に知られた後、テレビ放送や雑誌などでも度々取り上げられてきたが未だにその正体を見せない巨大魚でもある。

初秋の大鳥池
紅葉と大鳥池 画像は YAMAGATA IMAGES

紅葉の美しい大鳥池を見るほどにタキタロウ伝説の浪漫に引き込まれていきそうになる。

まずは大鳥池とタキタロウについて伝説として語られている事例や報告書等を列挙することで、現時点でのタキタロウについて整理しておこう。

※山形県の伝承や民俗調査とあわせて大鳥池にも赴きたいとは思っているが、現時点では未探訪。

大鳥池の位置と地理

山形県大鳥池の位置図
当時住んで居た四国から大鳥池は遠かったw 地理院地図より

タキタロウが棲むとされる大鳥池は山形県内で最大の湖、以前は大鳥湖とされた時期もあった模様、同県鶴岡市大鳥に位置し、水面標高966m、面積0.4km²、最大水深68mの堰止湖。
朝日山地以東岳北西山麓の山形新潟両県境すぐ北端部で、赤川水系本流の最上流域でもある。

赤川本流上流部は大鳥川とも呼ばれており、大鳥池から下る流れは東大鳥川、荒沢ダム上流にて大鳥屋岳や重蔵山から降る流れを西大鳥川とも言う。

鶴岡市街方面からの大鳥池
鶴岡市上空方面から大鳥池を望む google earth pro により元画像作成

大鳥池への道程は、鶴岡市街地方面から県道349号線を南下し荒沢ダム最上流部のタキタロウ館附近へ、そこから県道より分かれて東大鳥川に沿って上流の泡滝ダム駐車場までは車にて、後は谷沿いに大鳥小屋(タキタロウ山荘)まで徒歩で目指すこととなる。

なお下記地図にて、登山道及び周辺地形や地名は参考としていただきたい。

大鳥池周辺概略図
大鳥池周辺概略図

大鳥池の北岸には大鳥小屋(避難小屋、タキタロウ山荘とも)やキャンプ場等の施設が登山者や釣り人を迎え、小屋から水門を越えて東へと以東岳への登山道が伸びる。

大鳥池の伝承

現在は幻の巨大魚「タキタロウ」の棲む山上湖として大鳥池は広く知られているが、古名は藤ノ池とも云い嘗ては女人禁制の地とされていたらしく、大鳥池で魚を獲る度に大洪水が起こるため、池に行く人を差し止める番人が最上家の改易まで付け置かれたという話もあったりする。

禁制地(行くと祟りや不幸が起こる場所)としての大鳥池は出羽国風土記「大鳥紀行」の段でも記されていることから、江戸後期から明治時代においても口伝としてあったことが理解できる。

また、大鳥池の地名に掛かる伝承として、高僧として知られる行基が大きな白い鳥に導かれてこの池を訪れ八大金剛龍王と出会って越後の乙宝寺伽藍建立の木材を得た話が伝わっており、『大鳥湖の伝説 -大きな白い鳥が行基を湖へ導いた。ここから、大鳥が始まった。-』に掲載されているので、地名・伝説に興味のある方は是非一読を。

ではでは、大鳥池の概況を見たところで次はタキタロウの言い伝えなどを見ていこう。

タキタロウ その巨大魚伝説

山深く神秘的なこの大鳥池に棲むと言われるタキタロウだが、その姿を最も実感しやすく貴重な資料を手軽に見学できるのが荒沢ダム上流部にある「タキタロウ館」だろう。
タキタロウ伝説、タキタロウの模型とホルマリン漬け、釣りキチ三平関連、大鳥池のことについてなどが常設展示されている上、釣り堀や食事処等の施設も充実している。

タキタロウ館
タキタロウ館 ~鶴岡観光ナビより~

さて、タキタロウについて伝わっているのは、大凡次のようなことになる。

  1. タキタロウは体長約一・五メートル、兎に似た形の口は下あごがめくれ上がり、体の表面は茶褐色でヌメっていて、大きな尾ひれは三味線のバチのよう。
  2. 肉は赤身でおいしいが、体表の脂が厚いのでうまく焼けないという。
  3. 昔は滝太郎や竹太郎と記されて、発見者が滝太郎だったからだとも、「滝の主」という意味に由来するのだともいわれていた。
  4. 三角池(みすまいけ)は昔は大鳥池と繋がっており、メスのタキタロウが居たという。

また次のような話(山形の自然景観 タキタロウと朝日連峰山開き=読売新聞 2000年6月3日より)もあるという。

朝日村の山奥に、大鳥池という大きな湖がある。
周りを高い山々に囲まれたこの湖には、昔から怪魚「タキタロウ」が住むと言われている。

地元の言い伝えでは、タキタロウは暗雲を呼び、嵐を巻さ起こせる。
捕らえようとすれば、洪水が村を襲い、田畑に害を及ぼすとされる。

ある日、イワナ漁に行った若者が帰らない。
村人が捜しに行くと、湖面に糸の切れた釣り竿だけが浮いていた。

小舟で漁に出た村人は、突然の大波に姿を消した。
怪魚に小舟を襲われ、命からがら逃げ帰った村人もいる。

近くの川の水が枯れた時は、上流でタキタロウの死がいが流れを止めていた。
腹を裂くと、食べたカモシカが出てきた。
こんなことから、「呑魚(ドンギョ)」の別名もある。

また、山菜採りの村人が湖に流れ込む沢で、いぴきを聞いた。
見ると七尺(2.1m)はある大魚が水中で寝ていた。
「あっ」と驚さの声をあげると魚はぎろりとにらみつけ、急流に消え去った。

あわせて「釣りキチ三平」にて記されていた特徴も列挙しておく

一、タキタロウはその昔よりO池に済む珍魚なり
一、身の丈およそ三尺三寸にて体側に斑点あり
一、冷水を好み直射日光を嫌う故 水底深くにすみ時折水面に出ては餌をあさる
一、食性はどん欲なれど警戒心がすこぶる強く敏捷にして人目につくことはまれなり
一、秋には沢に登りて産卵しその一生を終るも死骸が発見されたるためしなし
一、かって 幾百人これに挑みても釣られたるためしなし
一、その身は白身の魚にて美味なること このうえもなし

これらの話には、タキタロウの生態や習性のみならず神秘的な側面があることが窺えるが、混乱を避けるためにも生態や習性と神秘性は分けて考えていくべきだろうなと。

また、昔は縁起物として食べられていたという話も残っている。

タキタロウの生態や習性から正体への接近

伝説などで語られる中からその生態や習性を抜き出してみたのが以下。

① タキタロウは昔から大鳥池に棲んでいる。
② 身の丈は1~1.5mほど、中には2mを越えるような物も居た。
③ 体側には斑点があり、下顎がめくれ上がる。体のヌメリは強く、尾鰭は三味線のバチの様。
④ 冷水を好み、水底深くに潜む。食性は貪欲だが警戒心は高い。
⑤ 産卵期は秋で沢に上って行う。かつて三角池が繋がっていた頃には雌が居たと云う。

何となくだがタキタロウの姿を想像できるだろうか? そして、そんなタキタロウの貴重な顔写真がこちら♪

タキタロウを正面から
タキタロウ調査報告書 2014より

少し見難いかもだが、下の顎がしゃくれあがっているのがタキタロウの特徴と言われている。
もう一つタキタロウ館にある剥製の画像もペタリとしておく♪

タキタロウ

また山形新聞が「タキタロウを追う」と当時の記事が山形キングサーモン「幻のキングサーモン&伝説の滝太郎」にも掲載されているのでよろしければご確認を。
同記事の内容は、五百沢智也氏を団長として1983年秋に始まったタキタロウの本格的な調査と各種写真、伝承等。

タキタロウは謎に包まれている巨大魚なのだが、証言や伝説だけでなく写真や魚拓などの証拠も数多く残されているのが実在するという浪漫を掻き立てているのかもしれない。

タキタロウの正体を巡る様々な説

幻の巨大魚ということでタキタロウの正体には様々な説が挙げられている。

・イトウ
・イワナ
・ヒメマス
・新種の古代魚
・イワナの3倍体か
・イワナの突然変異か

淡水で大型になるという事でマス類ではという推測が多いようだ。
中には草魚と云う説もあるようだが、これはまぁうん、端に於いておこうwww

まぁ魚類や生物に素人の考察よりもやはり「餅は餅屋」の通り、WEB上で手軽に巨大魚について専門家の意見を知るには「謎の巨大生物UMA」や「サツキマス・サクラマス・イワナ渓魚の生態考察」が一番、あれ?
だったのですが、さくだいおうさんのサイトが閉鎖…、『タキタロウとナミタロウについて』と題してあげておられたのだけれど諸般の事情から仕方ないかもと、無念。

タキタロウの正体に対する大きな手掛かりなどが記載されてたので読んだ人も多いかと思う^^
勿論ながら本考察でのアプローチはさくだいおう氏と違って伝承や史料からなんだけれども、おそらく結論はかなり近いのではなんて思っている。

ということで、1985年に捕獲されたというタキタロウの図を以下に紹介しよう♪

タキタロウ魚体の詳細図

ちなむのだが日付は確認してはいけない♪
もうひとつちなむのだが大鳥池を含む赤川のヤマメ・イワナ・ニジマスの禁漁は10/1~翌3/31、遡河性マスの禁漁は9/1~翌2月末日となっている…。

漁協の許可を取っている?はず、いや正体不明だからいいのか? っておい~www

この固体なのか大仁田厚が登場した番組での個体かどうかは判然としないが、遺伝子解析か何かで「アメマス系のニッコウイワナ」と「オショロコマに近いアメマス・エゾイワナ」という二つの回答があったということは記憶にある。

さて、もう一つ確認しておくべきは大鳥池の生息環境及び巨大魚となるためには十分な食料=餌が必要になるということだろう。

2014年のタキタロウ調査で魚群探知機にて水深25~54メートルの地点で1日に6回以上、1匹から数匹の魚影を探知することに成功したとされる、これはタキタロウの言い伝えの『深場に棲む』と合致しているようだ。

それを裏付けるように、同行した慶應義塾大学先端生命科学研究所の伊藤卓朗博士が池の調査をした結果、深い水域でも魚が生きるのに十分な酸素濃度があることも判明している。

ただし餌に関しては否定的な意見もあり、少し古くはなるのだが「山形県大鳥池 1959年夏季の状態概報 上野益三」という報告書は貴重だろう。

こちらはタキタロウについての調査でないためかそれに類するような記述は全くなく、上野氏らが大鳥池から得た魚類はヒメマスおよびイワナの両種のみで頭のみ大きく痩せた個体ばかりであり、

『湖全体の生産力から考え、その食餌に乏しいから、その見るべき生産は期待できない。底棲動物は見られない。以上の諸性質から考えて、本湖は模式的な貧栄養湖と見做される』

と総括している。

この報告書を読むと大鳥池には巨大魚が生息できそうにない環境のようで、タキタロウを語る上で無視してはいけない貴重な資料でもあると考えている。

巨大魚タキタロウの姿を追うために…

以上、少し長くなったけれども大鳥池とタキタロウに関わる伝説・報告書等について、あ!っと思い出した人や初めて知った人のためにもとまとめてみた。
できるだけ私見は排除しているつもり♪

また、以下にタキタロウを考察するための参考となる物をあげておく、現時点で十分とは言えないとは思うので、郷土史関連及び雑誌・新聞記事等あれば是非とも教えていただきたい。

次章ではタキタロウの捕獲事例や伝承・資料等を時間軸に据えてみることにする、これによって見えてくるものは一体何だろうかと^^

タキタロウ関連の参考資料やWEB頁

【報告書類】
タキタロウ調査報告書 2014 大鳥地域づくり協議会 2015年発行
山形県大鳥池 1959年夏季の状態概報 上野益三
地学雑誌20巻,12号 「大鳥池」 1907年(明治40年) 中村 熈静

【WEB頁】
・ウィキペデイア タキタロウ、大鳥池の項
山形鶴岡大鳥てんご
未知の細道 伝説のタキタロウを追って
山形キングサーモン 「幻のキングサーモン&伝説の滝太郎」
・サツキマス・サクラマス・イワナ渓魚の生態考察⇒閉鎖
・いつでも自然がそばにいる 「大鳥池のタキタロウ 【釣り タキタロウ(仮)編】

【参考史資料】
・両羽博物図譜 江戸末期~明治初期頃 松森胤保
・出羽国風土記「大鳥紀行」 1884年 荒井太四郎
・出羽国風土略記 1762年頃 進藤重記
・大泉旧事記 著者及び成立年不明 (未精査部有)
・大泉叢志 書写年不明 阪尾宗吾編輯 (大泉及び周辺史料の編集史料、未精査部有)
・『珍禽異獣奇魚の古記録(磯野直秀、慶應義塾大学日吉紀要。自然科学 No.37(2005)。p33-59)』
・『大鳥湖調査紀行』 1880~1890頃 赤川筋水利土功会(未読、捜査中)

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